歌会始の御製(ぎょせい)・御歌(みうた)・詠進歌
                              
◇平成14年歌会始お題「春」

御製(天皇陛下のお歌)
 園児らとたいさんぼくを植ゑにけり地震(なゐ)ゆりし島の春ふかみつつ

皇后陛下御歌
 光返(かへ)すもの悉(ことごと)くひかりつつ早春の日こそ輝かしけれ

皇太子殿下お歌
 青春をわが過ごしたる学び舎に新入生の声ひびくなり 

皇太子妃殿下お歌
 生(あ)れいでしみどり児のいのちかがやきて君と迎ふる春すがすがし

文仁親王殿下お歌
 ふきのたう雪解けの地に顔いだし春の訪れ近しと思ふ

文仁親王妃紀子殿下お歌
 冬枯れし庭のしばふも春の陽にひごとみどりの色をましゆく

清子内親王殿下お歌
 降りやみてあしたいよいよ春めかむ窓にきき入る苑の雨音(あまおと)

正仁親王殿下お歌
 春の日のあまねく照らす那須の野にはるりんだうは青ふかく咲く

正仁親王妃華子殿下お歌
 春ふかく山なみつづく那須の原みやま桜はほのぼのと咲く

崇仁親王妃百合子殿下お歌
 わが庭の春のおとづれまづ見えてミモザアカシアはなやぎて咲く

ェ仁親王妃信子殿下お歌
 光る海みどりの木々を前にして朝明(あさけ)の卓に春を思へり

憲仁親王殿下お歌
 春の陽にかげろふゆらぐ新雪の斜面みおろしいざ滑りなむ

憲仁親王妃久子殿下お歌
 川岸に巣づくりはげむかはがらす春はやき水つめたく透けり

  

召人 扇畑忠雄
 春の野にわが行きしかば草なびけ泉かがやくふるさとの道

選者 武川忠一
 歳月の嵩(かさ)踏みて立つ山の路春りんだうは丈低く咲く

選者 安永蕗子
 月明に梅花水藻(ばいかみづも)の花ひらくいちはやきかな夜天の春は

選者 岡野弘彦
 春の潮伊豆の島根によせくるを天城のみねに見はるかし立つ

選者 岡井
 ながく永く待ちにし春に会はむとしするどくとがる花の芽われは

選者 島田修二
 うぶすなの浦賀の海を言ふほどに春のうしほのただにきらめく

 

選歌(詠進者生年月日順)

ブラジル サンパウロ州 中村教二
 野に山にイッペイの花咲き満ちて吾がうまごらの国の春なり

静岡県 瀧本義昭
 積み上げし堆肥押しのけ出づる芽の先のするどき春となりけり

島根県 小田裕侯
 昨夜(きぞ)ふりし春雪を身に浴びながら幹をめぐりて杉の枝うつ

鹿児島県 中屋清康
 青春の汗にまみれて声ふとくラガーの一団駆けぬけて行く

東京都 工藤政尚
 噴気たち泥流島をおほふとも海青ければ春の待たるる

岐阜県 奥井重敏
 とぶとりの明日香の春は坂多し貸自転車のかすかに軋む

神奈川県 岩ア幸子
 春雨の軽きリズムを新しき傘に聞きつつ汝(な)に会ひに行く

神奈川県 大矢節子
 トルストイの民話読みたる春の午後父の匂ひのページに眠る

群馬県 里見佳保
 朗読は春の章へと入りたりそのやうに君と繋がつてゆく

大阪府 中迫克公
 トンネルのむかうにみえる僕の春かすかなれどもいつか我が手に